がん 患者さんの心の迷い
薬剤師として患者さんやご家族から相談を受けていて、皆様の不安と迷いをよく感じます。
そのため、私たちは癌のご家族には、「いつかは必ず亡くなるのです。残された時間をどうすごすのか?よりよく過ごせる方法を選択しましょう。」と、提案しています。
ある患者さんの例をご紹介します。
60代の男性(まじめな公務員で結構役職のある方です。)の奥様が、癌で余命1年を宣告されて、手術をして体力をかなり落とされていました。
ご主人は、「なんとか奥様を助けて欲しい、お金はいくらでも出すから、病院の治療と併用してできる最善を尽くして欲しい。」と言われます。
しかし、私たちは「残念ながらもうこの余命が天命です。癌に効くという漢方薬は存在しません。ただ残された時間を元気にどう過ごされるか?を考える方法を探して行くしかありません。」と言うしかないのです。
こちらも何回もご主人の相談を聞きました。ご主人の必死さも非常にわかるし、向こうも知識が豊富だということがわかります。患者さんの体力や調子を上げる ことは漢方でも可能ですが、ご主人のいう「癌に効く方法はないのか?」には応えてあげられないのです。ご主人はどうもそれがもどかしくなったそうで、途中 で連絡が10ヶ月ほど来なくなりました。
自分は、心配していましたが、こちらから電話をするわけにもいかないので相手の電話を待つしかないのです。
ある日、突然そのご主人さんより電話がかかってきました。
「中尾さん、あなたにもう一度相談したいんだ。会って話したいんだが・・・」と。
福岡市内で会いましていろいろ話しました。
「中尾さん、あなたの言う意味が、やっとわかったよ。それであなたにまた相談にのってもらいたくてね。もう妻は、入院してて余り時間がないんだ。なんとか楽になるようにして欲しい。」と言われます。
『わかりましたが、いままでどういう経過をたどってきたのですか?』
「あれ以来、本やネットや人からの紹介であれこれ癌に効くと宣伝している漢方薬や健康食品などあらゆることをしてきました。彼らはこの漢方薬や商品は癌に良いですよ。癌に効きますよ。と甘いことをいって何百万も使わせるだけで、結果効き目はなかった。
中尾さんみたいに甘いことも言わないし、物を売ろうとしない姿勢の人が一番信用できるということがわかったんだ。だからあなたに最期に相談をしてなんか処方して欲しいと思って来たんだ。」
奥様の経過の話を聞くと、もう完全に「ガンに効きますよ、癌が治りますよ」という癌ビジネスの手玉にとられて、かなりお金を使われていました。
あのまま体調を維持しておけば、良かったかもしれないのに・・・と思いましたが
「中尾さん、患者はね、癌が治りますとか甘い言葉を言われると、わらでもすがるような気持ちで飛びつくんだ。あなたみたいに癌は治らないといわれると、辛くなって甘い言葉の方向に言ってしまうんだ。患者って言うのは弱い生き物なんだよ。」と言われました。
その言葉に「はっ」としましたが、医療人としては、ただどの方向性がいいのかを示すことしかできません。
『すみません。立場上、理性的に考え、嘘をいうわけにはいかないのです。』
お話をした上、その日に処方を送る手配を整えました。
しかし数日後、電話があり、奥様が亡くなられたということを聞きました。非常に残念でした。
漢方で途中まで良かったのに、迷い、自分たちで調べて、いろんな健康食品や、中国の漢方薬、その他の最新療法をして結果、悪くなって、一旦途絶えていたのに電話がかかってくる患者さんが数多くいます。
本当に様々なドラマや人間模様があるのです。
「患者は弱い生き物なんだ。」本当にそう思います。
我々も決して強い人間ではありません。ただ、できることで何かをしてあげたい。
そのため我々も迷わずに一貫としていきたいと思います。
あれこれ迷わずに一貫性を持つことも実を言うと大事なことだと思います。
しかし、とても難しいことですね。
「隣の芝は青く見える。」「遠方の医者は良い医者。」などの諺がありますがうまくいっているときは、その方法を変えないこと。これが基本になるともいます。
うまくいかなくなった時に、次の手を打てるように、準備をしておくことが大事です。
私どもは、数多くの患者さんや、 がん 専門医の話、他の情報などを聞いてみて本当にそう思います。
「迷わないこと」 これもポイントだと思います。